「昨日、おれ、メールきた!」
「え!本当?なんて?なんて?」
「いや、おれが送ったから返ってきたんだけど!」
「それは……ふつうじゃない?」
わたしがそう言うと、なんだよ、と野田くんが笑う。
携帯を嬉しそうに握り締めながら、にこにことしている。
楽しそうにしちゃって。いまは、わたしといるのに。

「もう告白しちゃえばいいのに。」
「お前、どうしてそういう無理なことばかりを……」
「だって、沢井さんをすきになってからどのくらい経つ?三ヶ月くらい?」
「ちょっと、声がおおきい!お前にしか話してないんだからな!」
お前にしか話してないんだから、のところで、思わずにやけそうになる。
沢井さんの知らない野田くんを、わたしは知っている。
そこまで考えて、わたしは小さくため息をついた。自分、最低。
教室の騒がしさに混ざって、この悪い気持ちが溶け込めばいい。
彼に気づかれる前に。

「あ、そうだ。おれ、沢井にゲーム貸すんだった」
「ゲーム?」
んー、と適当に答えて、野田くんはかばんからゲームを取り出す。
野田くんが取り出したゲームには、新作と大きなシールが貼ってあった。
ゲーム雑誌やコマーシャルなんかで、大きく取り上げられている新作RPGだ。
「うわ!わたしもやりたいって思ってたやつだ!買ったの?」
「うん、この間。昨日メールで沢井に言ったら、やりたいって。」
「でも、野田くんまだクリアしてないんでしょ?」
「そりゃあな。いや、でも、ほら、話すきっかけがあるかも、って……」
言い出してから恥ずかしくなったのか、野田くんはゲームを持ったままうつむいた。
その姿に、思わず笑ってしまう。

「なんだよ。お前もやりたいんだっけ?」
「あ、うん……みんなが終わったあとでいいよ。」
「いいよ、沢井から返ってきたらおれの家でやろう」
そう言いながら、野田くんはにっこりと笑う。
「わたしじゃなくて沢井さんにそう言えばいいのに」
「お前はそう、また無理なことを……」
言えるわけないのわかってるだろ、と軽くわたしを小突いた。

うん。
無理だと思ってるから、言うんだもん。
今の野田くんと沢井さんの仲じゃ、そんなの無理だと思うから言うんだもん。
できると思ったら、わたしはそんなこと言わない。
わたしはじっと野田くんを見た。
「ほら、ゲームわたしにいくんでしょ。ついでに少し話しといで」
「ええ、うまく話せるかなあ……」
「なんでもいいのよ、ほら。」
わたしがそう言うと、野田くんはうなずいて小走りで廊下に出ていった。
べつに走らなくてもいいのに。
わたしは小さく笑った。

沢井さんの知らない野田くんを、わたしは知っている。
でもわたしの知らない野田くんを、沢井さんは知っているんだろう。
なんて、ありがち。

沢井さんは、野田くんの表情を変えることができる。
笑わせたり、照れた顔をさせたり、泣き顔とか怒った顔も。
わたしにはできないのに。
でも野田くんは、わたしの表情を変えることができる。
そりゃもう、ジェットコースターのようなはやさで。

どうしてだろう。
沢井さんはわたしのことを、ちっとも知らないのに。わたしだけこうやって空回りして。
野田くんの中でわたしたちの順番は、きっと沢井さんがはるかに上だろう。
彼はちがうというかもしれないけれど。
だって、わたしの中での順番は野田くんが誰よりも上にいる。

恋をすると女の子はかわいくなるだなんて誰が言ったんだろう。でたらめばっかり。
わたしはこうやってすぐどっちがいちばんか考えて、色んな気持ちがごちゃまぜになる。
恋よりも、独占欲なのだろうか。どっちもだろうか。
うつむくと、目からじわりとにじみでてきそうになる。
仕方ないから、窓の外へ顔を出す。ゆるやかな風が吹いていた。

一緒に、気持ちも流れるといいのに。

帰ってきて、少し話せたと野田くんが笑ったらわたしも笑うのだろう。
よかったね、やったねと。
ああ、もう。
結局なにがしたいのよ。





恋に焦がれて鳴く蝉よりも

鳴かぬ蛍が身を焦がす



(蝉が野田で蛍が「わたし」)