「うわあ、ひさしぶりね」
ゆずは楽しそうに言いながら、廊下を走った。
「小学校なんてあんまり来ることないものね。」
「中学校ならたまに行くんだけどな。」
ゆずのあとをくるみと創助が続きながら、やっぱり楽しそうにそうつぶやいた。
土曜の小学校は静かで、午後の日差しがゆっくりと大きな窓から入り込んでくる。

「温もはやく!」
走っていたゆずがいきなり振り向き、後ろでゆっくりと歩く少年にさけぶ。
温は迷惑そうに顔をしかめ、ゆずを見つめた。
「おれは他の用事が入っていたのに」
「どうせしょうもない用事でしょう。こっちの方が大切よ。」
「小学校見学の、どこが……」
「まあまあ、ほら、あとで図書室にも連れてってやるから」
創助は苦笑しながら温の肩にぽんと手を置いた。
それでも迷惑そうに、温はため息をつく。

「うわ!体育館ってこんなに小っちゃかったっけ。」
先にゆずが入った体育館から、大きな声が聞こえてくる。
「わたしたちが大きくなったからよ」
くるみも体育館に入りながら、そう笑った。
六年前まで自分たちはここで、みんなと同じように走り回っていたのか。
そう思うと不思議に思えて仕方ない。
今も六年前と同じようにみんなといる。けれど、六年前と今じゃやっぱりどこか変わっている。変わってないようだけれど、やっぱりどこかちがうのだ。

「あ、ここ、すごくすきだった。」
ゆずがステージの横を指差しながら、いきなり走り出す。
「いきなり走るなよ」
創助の声が体育館の入り口あたりから聞こえたが、ゆずは笑顔でステージにのぼった。
「ほら、このステージの横。ちょうど幕があるところ。」
ゆずの指差した場所を見て、くるみがゆっくりと笑った。
「わたしもそこ、すきだった。特等席なのよね、そこにのぼってみんなを見るの」
「ねえ!早く来ないととられちゃうの」
「ゆずはここに座らないで下で走りまわってたじゃん」
創助の言葉に、それもそうだけど、とゆずが笑った。
「温にいたっては体育館にすら来ないんだから。」
「来る意味がないから」
ちっとも興味なさそうに、温はステージを見つめた。

「おれとゆずがよくみんなと鬼ごっこしたりして、くるみがそこで見ていて、温が教室で読書だったっけ」
創助がそう言いながら、ステージにのぼった。
「そうそう。だってわたし、足おそいから見ているほうがいいの。楽しいし。」
くるみが思い出すように笑う。
「読書は楽しいよ」
温が小さくつぶやくように言った。そんなこと言って、運動神経ないだけでしょとゆずが笑う。
「そうじゃなくて、本当に読書は楽し……」
「あれ、これなに?」
「人の話最後まで聞いてよ」
いつもそうなんだから、と、あきれながら温がゆずに言う。
「ごめんごめん、だってこんなのなかったわよ」
ゆずはそう言って、ワイン色の分厚い幕をかきわける。
顔に幕があたり、ほこりっぽいにおいが鼻をくすぐった。
「ドア?」
幕の隙間から見えるドアノブを見て、創助がつぶやいた。
その言葉をきき、くるみと温もステージにのぼってとびらを見た。

「確かになかったはず……ね、これ」
「六年も経ってるんだから、物置とかでも作ったんじゃないの?」
「物置ならステージの下にあるじゃない」
ゆずがとびらを見つめたまま言う。
間をおき、四人はゆっくりと顔を見合わせた。
「開けてみようか」
「ばか、やめろよ。どうせ鍵かかってるんだから」
「やだ、創助こわいの?」
別に帰ってもいいわよ、とゆずがにっこりとっほほえむ。
いやみを言うときの、小さい頃から変わらないゆずのくせだ。

「こわいとかじゃなくて、勝手に開けたりしたらだめだろ」
「勝手に開けたりするのがだめなら鍵がかかってるでしょ。それならあきらめる。」
ね、それならいいでしょ、とゆずがみんなの目を見る。
「ヘアピンとかで開けるのはなしだよ」
「そこまでしないわよ、ばかね」
「しそうだもの」
くるみの言葉に、なによ、とゆずがにらんだ。
「わかった、鍵がかかってたらもう何もしないってば。いいわね。」
うん、とみんながうなずいたのを見て、ゆずがドアノブに手をのばす。
誰も開けていないからだろうか。ほこりでざらざらとした。
ゆっくりと右側にひねってみる。

そこから一気にドアをひいてみる。開かない。
なんだ、とゆずはため息をついたあと、すぐに今度はドアをおしてみた。
ぎい、と古い音がする。
ドアがゆっくりと開いた。



体育館のとびらのおはなし

→02適当な案内人