「ほんとに開いた」
小さいはずのゆずの声が、体育館にひびいた。
「ほら!ね!だから言ったじゃない!」
「なにも言ってないだろ!」
鍵ちゃんとかけとけよ、ぶっそうだなあと創助が開いたドアを見つめて言った。
「さ、入りましょう」
「もういいじゃない、入ったってどうせ学芸会の小道具しかないわよ。」
怒られたらどうするのとくるみの言葉に、ゆずがにっこりと笑った。
「だいじょうぶよ、誰にもばれないから」
「そんな……もう。」
ね、とゆずはみんなを手招きした。

「なんかわくわくするわね。探検みたい」
「おれ、はやく図書室行きたいんだけど」
「温が飽きてきてるわよ」
みんな静かにしてよ!とゆずはみんなのほうを振り向き、ドアの中へと入った。

「うそ」
ドアの向こうはただひたすらせまい通路が続いていた。
少し歩いてみても、先が見えない。
「こんなにここの体育館、通路のびるくらいひろかったけ……?」
「ひろくない。」
「温、即答しないでよ……ゆずちゃん、もう出ない?」
通路の奥をじっと見たあと、ゆずはくるみの顔を見た。
ゆずより少し背の低いくるみが、ゆずを見上げる。短い髪が少しゆれた。
「……そうね、帰ろう。」
さすがに、変。
自然と早足で、ゆずはみんなの背中をおす。
「ゆず、おすなよ、開けられないだろ!」
「うるさいわね創助、はやく開けなさいよ!」
「無理言うなよ!」
ひとり分しかない通路で、ゆずの声が創助をせかす。
しかし、なかなか前に進まない。
「創助くん、どうしたの?はやく! ゆずちゃん痛い痛い!足ふんでる」
「そのくるみは俺の足ふんでるよ」
「温もくるみも静かに!」
そう言いながら、一番大きな声でゆずがさけぶ。
「創助遅い!はやく!」
「いや、開かないんだよ!」
今度は創助の声がひびいた。
一瞬だけ、四人の動きが止まる。

「創助くん、もう一回。」
「だから!開かないんだってば!」

え、とくるみが奥のほうから声を出す。
「創助、さっきゆずがおしたんだから引くんだよ?わかってる?」
「わかってるって!さっきからおしたり引いたりしてるんだけど……」
「冗談じゃないわよ!」
言い出した張本人が何言ってるんだよ、と創助がドアノブをまわしながら言う。
やっぱりだめだ、開きそうにない。
さっきまで自由に開いていたのに、ドアはびくともしない。

「もう……きっとここで暮らすのよこれから……」
「くるみ、あきらめちゃだめよ!創助ほらはやく!」
ゆずが身振り手振りで創助に指示をした。
しかしせまい通路ではじゃまなだけで、温の肩には何度も手があたっている。

「あれ、小学生?」

しばらくドアをがちゃがちゃとひねっていると、通路の向こうから男の人の声がした。
聞き間違いかと、一瞬みんなが静かになる。
「温、何か言った?」
「言うわけないじゃん。俺さっきから一言も発してないけど」
「じゃあ、創助」
「俺がいま何してるかわかってるのか?」
くるみとゆずが顔を見合わせた。
くるみの顔色が少しずつ悪くなり、ふらり、と足もとがくずれそうになる。
「くるみ!ちょっともう!」
「だって、まさかゆずちゃんじゃないでしょう?」
「あんなに声低くないわよ!」
その言葉をきき、ふらり、とまたくるみがゆれる。

「あら、ごめんね。大丈夫だから」
また、さっきの声がする。
今度は完璧に聞こえた。ここにいる誰かの声ではない。
「創助!はやく開けなさい!ふざけてるんじゃないでしょうねえ!」
「そうだったらどれだけいいだろうな!」
がちゃがちゃ、とドアノブをまわす音がひびく。
奥から聞こえてきた低い声の、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

「大丈夫だって。ほら。」
低い声がすぐそこで聞こえてくる。
ゆずがゆっくりと振り向くと、知らない男がにっこりとして立っていた。

「うわあ!」
思わず、大声でさけぶ。
ゆずの向こうには、ひょろりとした男が、ほほえみながら四人を見ていた。
「ここ、せまいからもう少し奥にいこうか。」
男がのんびりと言った。
若いのか、老いているのかもよくわからない。
二十代にも三十代にも見えるし、十代と言われればそうかと納得できるし四十代と言われても違和感は感じない。
目が、優しそうに細く笑っていた。
「おれたち今から帰るんです。」
創助が顔を出して、男に言った。
何だこいつ、と少しだけにらむ。
「だって、開かないんでしょ?大丈夫、怪しい者じゃないから」
「あ、ここの学校の先生ですか?もしかして事務のひと?それとも、わたしたちみたいに卒業生とか」
安心したのか、くるみが男に向かって笑顔できいた。
「ううん、ちがう。ちゃんと説明するから。」
ちがう、と言われくるみの笑顔が少し引きつる。
ああ、もう、とゆずはくるみの肩を軽くたたいた。

「どうせ開かないんだから行きましょう。」
「おい、ゆず。」
「だって開かないんだもの」
納得しない創助に向かって、ゆずがため息をついた。
どうせここにいたって、何も変わらない。
「温、いいわよね?」
「おれはどっちでも」
「ほら、温はいいって」
「面倒なだけだろ、温は」
今度は創助がため息をつく。
男の顔をじっと見て、創助がゆっくりとうなずいた。
「わかった。少しだけなら行く。でも怪しいと思ったらもどるからな」
「はいはい」
男がゆっくりと笑って、通路の奥を指差した。
「もう少し行ったら、広いところに出るから。」
男の言葉に、四人は小さくうなずいた。


「さっきよりはいいけど、やっぱりせまいわね」
少しだけ広いところに出ると、ゆずはそうため息をついた。
「ほら、はやく説明しろよ」
創助が男をにらんで言った。男はその言葉に、ゆっくりと笑う。
「あ、きくけど、君たち小学生?」
「……そう見えるの?」
「まさか」
だよね、と男が四人をみわたした。
「ここはね、おはなしのくに。本当は小学生をよぶつもりだったんだ。」
せまい通路に、静かな沈黙がある。
最初に口を開いたのは、くるみだった。
「おはなしのくに?よぶ?」
「そう。」
全く話がのみこめない。まだ沈黙が広がる。
「ここは、おはなしを作るおはなしのくに。いつもはここのおはなしのくにの王が、おはなしを作るんだ。 けど、長い間ひとりきりで作るのが疲れたんだよ。だからここに小学生をよんで、お話を作らせようって考えたわけ。」
わかった?と男がまた四人をみわたす。

「……帰るか」
「ちょっと!本当だってば!おれがその案内役なの!」
「案内役って……ふつう妖精とかじゃないの?」
どう見ても、妖精なんかじゃないじゃない。ゆずがくるりと背をむけた。
そういう問題じゃないよ、ゆず。と温が小さくつぶやいた。
「行ったってドアは開かないよ。おはなしを最後まで作らなきゃ、開かないようにしてる。」
「はあ!?」
帰りかけた創助が振り向いて、男にさけんだ。
「どういうことだよ!」
「だから言ってるじゃん。あのね、この先にバーリ国っていうのがある。そこが舞台。 そこの国王の息子、つまり王子であるユウタと、路地裏に住む貧乏な町娘ラーラを導いておはなしをつくってもらう。 もちろん、最後がめでたしめでたしじゃなくてもいい。」
男が話し終える。きいていることすべてが、別の話のように思えた。


適当な案内人

→バーリ国